公認会計士試験の出願者数が近年急増中!原因と2024年試験(令和6年試験)からの変化を解説

近年、公認会計士試験の出願者が急増しています。

その結果、例年10~11%ほどで推移していた属人ベースによる合格率は、2022年と2023年の2年連続で7%台に下落しました。

公認会計士試験は限られた期間内において大量の勉強時間を確保する必要があるため、こうした合格率が続くと、社会人にとってはさらに厳しい試験になってしまいます。

しかし、事務局のWebサイトを見ると、2024年の公認会計士試験から状況が少し変わっており、それによって合格率がもとの水準に回復するかもしれません。

この記事では、近年の合格率低下の原因や、2024年からの試験委員の増員について解説をします。

公認会計士試験の合格率が低下している原因

公認会計士試験の出願者数が急増している

公認会計士試験の願書提出者数は、2015年から増加に転じ、2023年の出願者数はあと少しで2010年頃の水準に戻るところまで迫っています。

上記のグラフの人数は出願者ベース(名寄せをしていない状態)の短答式試験の受験者と免除者の総数です。つまり、その年に提出された願書の総数になります。

出願者数の増加にともない最終合格者の数も増えていますが、出願者数の増加数に追い付いておらず、合格率は低下し続けています。

近年の属人ベースによる最終合格率は、2021年が9.6%、2022年が7.7%、2023年が7.6%でした。

属人ベースによる最終合格率とは、「論文式試験合格者数/その年のすべて全出願者を名寄せした人数」で計算した合格率になります。

試験年名寄せした出願者数
(属人ベース)
論文式試験
合格者数
合格率
2013年13,224人1,178人8.9%
2014年10,870人1,102人10.1%
2015年10,180人1,051人10.3%
2016年10,256人1,108人10.8%
2017年11,032人1,231人11.2%
2018年11,742人1,305人11.1%
2019年12,532人1,337人10.7%
2020年13,231人1,335人10.1%
2021年14,192人1,360人9.6%
2022年18,789人1,456人7.7%
2023年20,317人1,544人7.6%
(出典)公認会計士・監査審査会ウェブサイトをもとに筆者が独自に集計・作成

上の表のとおり、出願者の増加にともなって合格者数も増えていますが、増加した人数は微々たるもので、合格率の減少はとまりません。

特に2022年と2023年の出願者数は前年から数千人のレベルで増加していますが、最終合格者数は100名ほどしか増えなかったことから、合格率は2年連続で7%台にまで下がっています。

短答式試験の合格率が低い

公認会計士試験は、短答式試験と論文式試験の2つ試験に合格しなければならず、短答式試験に合格することで論文式試験に挑戦することができます。

公認会計士試験の合格率の低下の原因は、この2つの試験のうち、短答式試験の合格率が低いことにあります。

言い換えれば、出願者数の増加に比べて、短答式試験の合格者数がほとんど伸びていないのです。

近年の短答式試験の出願者数に対する短答式試験の合格者数は、以下のようになります。

試験年短答式試験の出願者数
(第Ⅰ回+第Ⅱ回)
短答式試験
合格者数
合格率
2013年17,950人1,766人9.8%
2014年14,256人1,405人9.9%
2015年13,265人1,507人11.4%
2016年13,361人1,501人11.2%
2017年14,395人1,669人11.6%
2018年15,553人2,065人13.3%
2019年16,060人1,806人11.2%
2020年16,845人1,861人11.0%
2021年12,260人2,060人16.8%
2022年25,589人1,979人7.7%
2023年28,344人2,103人7.4%
(出典)公認会計士・監査審査会ウェブサイトをもとに筆者が独自に集計・作成

短答式試験の合格者数も増加傾向にありますが、出願者数の増加には追い付いていません。

2014年~2023年の短答式試験の出願者数と合格者数の推移をグラフにすると、以下のようになります。

短答式試験の出願者数(第Ⅰ回+第Ⅱ回)が前項の属人ベースの出願者数と異なる理由は、①第Ⅰ回・第Ⅱ回それぞれの出願者の重複が排除されていないことと、②短答式試験免除者を含めていないためです。

論文式試験の合格率は安定している

これに対して、論文式試験の合格率は、直近の試験も含めて約34%~37%ほどで安定しています。

つまり、論文式試験は、近年の出願者数の増加の影響を特に受けていないのです。

次の表をご覧ください。論文式試験の合格率だけは安定していることがわかると思います。

試験年論文式試験
受験者数
論文式試験
合格者数
合格率
2013年3,277人1,178人35.9%
2014年2,994人1,102人36.8%
2015年3,086人1,051人34.1%
2016年3,138人1,108人35.3%
2017年3,306人1,231人37.2%
2018年3,678人1,305人35.5%
2019年3,792人1,337人35.3%
2020年3,719人1,335人35.9%
2021年3,992人1,360人34.1%
2022年4,067人1,456人35.8%
2023年4,192人1,544人36.8%
(出典)公認会計士・監査審査会ウェブサイトをもとに筆者が独自に集計・作成

論文式試験の合格基準は、52%の得点比率を基準に審査会が相当と認めた得点比率とされています。総点数の70%が基準になる短答式試験と異なり、論文式試験は受験生の偏差値と呼べるもので合否判定が行われるため、毎回一定数の合格者が輩出されるしくみになっています。

つまり、出願者数が増加を続ける局面では、それに合わせて短答式試験の合格者数が増えなければ、合格率は下がり続ける一方であるということです。

公認会計士試験の出願者数が増加している要因

続いて、出願者数が大きく増えた2022年と2023年の公認会計士試験では、どのような出願者が増加したのかを見ていきましょう。

20代の出願者数が2年間で急増

まずはどの年齢層の出願者が増えたのかを調べるために、2019年からの出願者の年齢層を比較します。

その結果、2022年と2023年において、20代の出願者数が増加していることがわかりました。特に20歳以上25歳未満が大きく増加しています。

また、20代ほど多くはありませんが30歳~35歳の出願者数も増加しています。

2021年は第Ⅰ回試験が実施されなかったため、比較対象から除いています

職業は学生・無職・会社員の順に増加

続いて、職業別の出願者数の変化を調べます。

同じように2019年から比較すると、2022年と2023年では、学生、無職、会社員が大きく増加していることがわかります。また、もともとの数は少なめですが、公務員と会計事務所員も増加しています。

(参考)「無職」の合格率が上がっている

「無職」の区分は、学生時代から勉強をはじめた人が卒業後も引き続き受験に専念しているケースや、社会人が仕事をやめて試験に専念しているケースであると考えてよいと思います。

そう考える理由は、無職の合格率の高さです。

無職者の合格率は、「専修学校・各種学校受講生」を抜き、今は学生に次いで合格率の高い区分になっています。

参考までに、2023年の合格率は、学生が56.2%、次いで無職が18.7%、専修学校・各種学校受講生が7.4%でした。

かつては合格者のうち、「専修学校・各種学校受講生」は無職の2~3倍ほどでしたが、数年前から専修学校・各種学校受講生の区分が少しずつ低下し、代わりに無職の区分が増加して、2020年に逆転しています。無職区分の増加はここ数年のトレンドであり、この2年間で起こった話ではありません。

出願者数が急増した原因は主に20代の学生

まとめると、2022年と2023年の公認会計士試験において出願者数が急増した原因は、主に20代の学生にあるといえます。

また、メインではありませんが、35歳未満の方や会社員の出願者も増えています。

2024年試験から変わること

公認会計士試験の試験委員の人数が、2024年試験から増員されています。

この増員によって、もしかすると2024年試験から合格率が上がるかもしれません。

一体どういうことなのか説明したいと思います。

公認会計士試験の試験委員とは

試験委員とは、公認会計士試験の事務局である「公認会計士・監査審査会」が毎年任命する、試験の採点などを行う専門家や実務家の先生方のことです。

短答式試験はマークシート式ですが、論文式試験は記述式であるため、論文式試験の採点においては、試験委員に少なからず負担が発生すると考えられます。

次のグラフは、近年の出願者数と論文式試験受験者数のグラフに、試験科目のうち配点がもっとも大きい「財務会計論」の試験委員の人数を記入したものです。

2014年試験から、試験委員の数が減少していることがわかります。

試験委員の数が減少した理由について、事務局からの説明は特にありませんが、2014年までの出願状況を見れば、出願者数の減少によるものであると考えてよいでしょう。

2024年から試験委員が増加

2024年試験から、各科目の試験委員の数が再び増員されています。

この増員によって、会計学(財務会計論・管理会計論)と企業法の試験委員の数は、論文式試験の受験者数が5,000人を超えていた2010年の水準まで戻りました。

参考までに、2010年~2024年における会計学(財務会計論・管理会計論)、監査論、企業法の試験委員の数を一覧にまとめましたのでご覧ください。

試験年財務会計論管理会計論監査論企業法
2010年18人12人16人12人
2011年18人12人16人12人
2012年18人12人16人12人
2013年18人12人16人11人
2014年14人10人13人11人
2015年14人10人11人9人
2016年14人10人10人10人
2017年14人10人10人10人
2018年14人10人10人10人
2019年15人10人10人10人
2020年15人10人10人10人
2021年16人10人10人10人
2022年15人10人9人10人
2023年15人10人10人10人
2024年18人12人12人12人
2025年18人12人12人12人
(出典)公認会計士・監査審査会ウェブサイトをもとに筆者が独自に集計・作成

2024年から試験委員が増員された理由について、事務局から特に説明はありません。

しかし、タイミングからして、近年の受験者数の増加に対応したものと考えられます。

この増員によって、論文式試験に駒を進められる、短答式試験の合格者の増加が期待できるのではないでしょうか。

まとめ

公認会計士試験の合格率が低下している理由は、20代の学生等の受験者の増加にともなう短答式試験の合格率の低下にあるといえます。

しかし、2024年から試験委員が増加されたことによって、ここから再び合格者数が増加していくことが期待できます。