インボイス制度で本名公開による「身バレ」が起こる仕組み
個人事業主の中には本名で活動をしていない方も多いと思います。
しかし、インボイス登録をすると登録番号から個人事業主の本名がバレてしまうという話があります。
国税庁インボイス発行事業者公表サイトの利用開始
令和3年11月1日付けで、国税庁より「国税庁適格請求書発行事業者公表サイト」(以下、「公表サイト」)の利用開始が発表されました。インボイス登録申請の受付開始日(令和3年10月1日)から、ちょうど1か月後の公開となります。
この「公表サイト」にインボイス登録番号(T+13桁の番号)を入力すると、インボイス登録済みの事業者名を確認することができます。
個人事業主がインボイス登録をした場合、個人の本名とインボイス登録年月日が公開されます。
具体的には下記のように表示されます。

(画像出典)国税庁HP:インボイスQ&A問20より
個人事業主には、通称名、主たる屋号、主たる事務所の所在地も公開できるとされていますが、これらはあくまで追加事項であり、これらを公表しても本名は公開されたままとなります。
適格請求書から本名を検索可能
インボイス制度開始後、事業者は取引相手から受け取った適格請求書(インボイス)や適格簡易請求書(簡易インボイス)に記載された登録番号を見て、「公表サイト」でその有効性を確認します。
個人事業主が交付したインボイスから「公表サイト」で確認が行われると、取引相手に本名を知られてしまうことになります。
もともと本名で請求をしていた個人事業主にとっては問題ないのですが、そうでない場合はインボイスが「身バレ」の原因になってしまうのです。
インボイス登録によって本名がばれるケース
次のような個人事業主は、インボイス登録をすることが本名がばれるきっかけになります。
取引先に本名を明かさずに仕事をしてきた
インボイス登録をして取引先に適格請求書を交付すると、取引先から「公表サイト」で本名を確認されてしまいます。
取引先に本名を明かさずに仕事をしてきた人は、この確認によって取引先に本名が伝わってしまいます。
また、取引先は相手がインボイス発行事業者で間違いないことを確認することが目的ですから、公表サイトに表示された氏名が本名かどうかを確認されることもあるでしょう。
取引先の方針によっては、身分証の提示などの方法で確認されることも考えられます。
不特定多数と取引きする業種を営んでいる
公表サイトの利用には制限がなく、事業者以外の一般人でも利用可能です。
そのため、不特定多数にレシート(適格簡易インボイスなど)を交付するような事業を個人で営んでいれば、不特定多数が登録番号を知ることになりますので本名がばれるきっかけになる可能性があります。
インボイス登録をやめるには、手続きが必要です。こちらの記事で解説しています。
インボイス制度による本名公開が実はそこまで怖くない理由
ここまでのとおり、インボイス制度では、登録番号によって本名を知られてしまう可能性があります。
とは言え、事業に無関係な人にまで本名が知られてしまうものではありません。
また、取引先に本名を明かさずに仕事をしているつもりでも、実は別の理由で本名がすでにバレているケースがあります。
インボイス制度の本名公開がそれほど怖くないと言える理由は、次のとおりです。
登録番号からしか検索できない
「公表サイト」という名称から、きっと多くの人が「不特定多数に本名を公開するサイト」をイメージしたことでしょう。
「自分の本名が”公表サイト”に掲載される」と聞けば誰でも不安になります。
しかし「国税庁適格請求書発行事業者公表サイト」で可能になることは、登録番号(T+13桁の数字)から本名とインボイス登録日を確認することのみです。
公表サイトには登録情報を一括で収集できる「公表情報ダウンロード機能」があり、当初は個人事業主の氏名もダウンロード対象でしたが、現在は個人事業主の氏名等は削除された上で提供されています。
これについては、声優さんや作家さんなどからの改善を求める声がきっかけになったようです。
この改善によって、現在は個人事業主の登録番号がわからなければ何もできませんし、それ以外の情報から個人事業主を検索することもできません。
つまり、公表サイトから本名にたどり着けるのは、基本的には適格請求書を交付した相手やそれを見る権限のある者(例:社内の経理担当者、顧問先の会計事務所など)だけです。おいそれと悪用できない状況にあると言えます。
公開される個人情報は氏名のみ
登録番号がわかっても「公表サイト」で確認できるのは、通称名などを追加しなければ基本的には氏名のみです。
住所、都道府県、登録申請先の税務署名など地域を特定する情報はありませんし、生年月日や連絡先ももちろん公開されません。
決済で本名がバレていることもある
個人事業主が本名を明かさないまま取引をすることは、実は結構難しいです。
例えば、決済方法が口座振り込みであれば、口座名義の「個人名」や「屋号+個人名」で既に本名はバレています。
すでに別のルートから本名がバレている場合、インボイス制度によって新たな個人情報が相手に知られてしまうことにはなりません。
源泉徴収で本名と住所がバレていることも
個人事業主は、業務内容によって相手から源泉徴収を受けることがあります。
個人事業主に支払われる報酬に対して源泉徴収が必要になる業務は、下記のとおりです。
1 原稿料や講演料など
2 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
3 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4 プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
5 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
6 ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
7 プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
上記はよくある報酬の源泉徴収対象の説明文ですが、このうち「原稿料や講演料など」の部分はかなり省略されていて、実際の条文では、ライター、イラストレーター、ミュージシャン、デザイナー、カメラマンなど、クリエイティブな仕事の多くが源泉徴収の対象になるよう定められています。
源泉徴収をした企業側は、法定調書という税務署に提出するための書類を作成します。
この書類には、報酬を支払った個人事業主のマイナンバーを記載して提出することになっていますので、初回の作成時にのみ、個人事業主に対してマイナンバーカードなど本人確認ができる書類を提示してもらうことになります。
すでにこれらの書類を取引先に提示している個人事業主であれば、インボイス登録番号など今さら気にする必要はありません。
(※)個人事業主の業務内容が源泉徴収の対象であっても、相手が源泉徴収義務のない者であれば源泉徴収はされません。(相手が人を雇用していない個人事業主であるなど)
クラウドソーシングでもバレている
クラウドソーシングは基本的にはアカウント名だけで取引ができることから、相手に身バレしないと誤解されることがあります。
しかし、クラウドソーシングにも源泉徴収の機能が一般的に備わっています。
源泉徴収機能を利用して取引をすれば、クライアントに本名や住所の情報が提供されます。
さらに言えば、プロフィール画像に自分の顔写真を登録している方が源泉徴収されると、相手に「本名+住所+容姿」の情報が提供されることになります。
意図せずその状況になってしまっている方は注意しましょう。
筆者が確認したいくつかのクラウドソーシングでは、「媒介者交付特例」でインボイス制度に対応するようです。
「媒介者交付特例」とは、委託販売において販売を請け負った受託者が、委託者の代わりに、クライアントに適格請求書(インボイス)を交付することを認める特例になります。
クラウドソーシングの場合、クラウドソーシングで仕事を請け負う個人事業主等を委託者、クラウドソーシング会社を受託者とみなし、クラウドソーシング側でインボイス登録の確認がとれた個人事業主等についてのみ、クラウドソーシング会社からクライアントに適格請求書(インボイス)を交付します。
原則的には、委託者名義の適格請求書を受託者が代理でクライアントに交付する特例ですが、次の2つの要件を満たすことによって、その適格請求書は、委託者(個人事業主等)の名義ではなく受託者(クラウドソーシング会社)の名称や登録番号で発行することができます。
① 個人事業主とクラウドソーシング会社の両方がインボイス発行事業者であること
② 個人事業主がクラウドソーシング会社に、自己がインボイス発行事業者の登録を受けている旨を取引前までに通知していること
筆者が確認したクラウドソーシングでは、2つの要件を満たす後者の方法を採用しています。
この場合、クライアントに交付される適格請求書は、個人事業主の本名も登録番号も記載されませんので、この取引から個人事業主の本名をクライアントに知られることはありません。
とは言え、前項のとおり源泉徴収をされていれば、クラウドソーシングであっても、クライアントは本名や住所をすでに知っています。