マンションの修繕積立金に関する公的資料に、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」があります。
このガイドラインが作成された目的は、マンションの老朽化を防ぐために修繕費をしっかり積み立てることの大切さをマンション購入予定者や既存の住人に知ってもらうことです。
ガイドラインでは大規模な修繕を計画的にちゃんと行っているマンション366件から計算した、修繕積立金の平均月額が示されています。
通常は非公開である数字がわかる貴重な資料であり、マンション投資をしたい人の投資判断や不動産関係のお仕事をしている人にとっては、資料作りなどで活用する機会があるのではないでしょうか。筆者もまた仕事の資料として役立てています。
しかし、このガイドラインによる平均値は、世の中に約686万戸あるマンションのうちの366件しか反映されていません。
そのせいか数値に有意性がないように見える箇所があり、そのまま活用するには注意しなければならない点もあると感じましたので、備忘録としてブログに残したいと思います。
国交省のガイドラインがマンション投資に役立つ理由
今回の記事で取り上げるガイドラインは、国土交通省による「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成5年4月追補版)です。以下、「ガイドライン」とします。
本来の目的は修繕積立金の不足を招かないよう適正額の設定や積立を促進することにあります。
しかし、この他にも、マンション投資をしたい人がランニングコストを調べたい時など不動産関係のビジネスに活用することもできる資料です。
なぜこのガイドラインがマンション投資をはじめとする不動産関係のビジネスに活用できるのか、その理由には、以下のものがあります。
信頼できるデータである
このガイドラインの目的は、マンションの老朽化を防ぐために修繕費をしっかり積み立てることの大切さを、マンション購入予定者や既存の住人に知ってもらい、必要な積立金の見直しや、見直し後の修繕積立金の合意形成の促進にあります。
マンションを売りたい業者側がこうした資料を作成すると、「自社の物件をお得に見せるために高めに作っているのではないか」とか、逆に「買いやすいと思わせるために安く作っているのではないか」と疑われてしまうことがあると思いますが、国の資料なので堂々と見せることができます。
もちろん、マンション投資を検討している者にも信頼できるデータです。
修繕積立金の徴収方法に左右されない
このガイドラインでは、マンションごとの「長期修繕計画」の計画期間全体に必要な修繕工事費の総額から平均月額を計算しています。
これにより、修繕積立金の徴収方法が均等積立方式と段階増額積立方式のどちらであっても、マンション購入者が実際に負担する修繕積立金の目安を知ることができます。
【(参考)修繕積立金の2つの徴収方法】
・均等積立方式…毎月定額で徴収する方法
・段階増額積立方式…初期の月額を少なめに設定し、徐々に徴収額を増やすことを前提とした徴収方法
マンションの築年数に左右されにくい方法で計算されている
調査対象となったマンション366件の築年数の内訳は、1980年代~2000年代が約8割であり、その内訳は、2000年代がもっとも多い37.2%、次いで1990年代が28.4%、1980年代が13.4%とされています。また、366件のうち約9割が、1981年6月以降の新耐震基準に変わった後の建物です。
このように築年数が異なるマンションから修繕積立金の平均値を計算しているのですが、築年数に左右されない工夫がなされています。
まず調査対象に選ばれたマンションは、国土交通省の別途ガイドラインに沿った長期修繕計画を立てているマンションになります。
その計画期間は、新築マンションであれば30年以上、既存マンションであれば25年以上です。
この長期にわたる計画を分析し、その計画期間全体に必要な修繕工事費の総額から毎月積み立てるべき修繕積立金を計算し、そこから平均月額を算出しています。
つまり、修繕積立金の平均値に参照される期間・金額が、マンションによって極端に変わるわけではありません。
そのため、築年数に左右されにくい値であるといえます。
中央値に寄せて調整されている
とはいえ、不動産は個別性の強い資産ですから、似たような造りであってもその修繕工事費が同じように必要となるわけではありません。
ガイドラインにも、そのマンションの形状や規模、立地、共用施設の有無などによって修繕費が変動することが明記されています。
そこで、修繕積立金の金額範囲や平均値は、サンプルのうち3分の2が包含される金額から算定されているそうです。
上位・下位の6分の1ずつのデータは参照されておらず、極端に上振れしたデータと下振れしたデータはカットされています。
「平均値」と示されていますが、中身は「中央値」に寄ったデータに調整されているといえます。
所有者が生涯支払う修繕積立金の参考になる
このガイドラインを読んだマンションの管理組合の中には、将来、修繕積立金の徴収不足が起こってマンションの価値が下がってしまわないよう、計画と徴収額を見直すきっかけになるでしょう。
このガイドラインが徴収額に影響を与える可能性があることを考えると、このガイドラインは、マンションの現在の所有者やこれから購入する者が、これから支払うことになる修繕積立金の額を予測する参考になると考えられます。
いくら値上がりするかの参考にもなる
マンションの修繕積立金は、マンションを買ってもらいやすくするために、購入時にまとまった修繕費として「修繕積立基金」を別に徴収したり、段階増額積立方式を導入して初期の修繕積立金を低く見せる工夫をしています。
そのため、修繕積立金が購入後に値上がりすることは珍しくなく、購入を検討する者にとっては、どのくらい値上がりするのかが不安で購入に踏み切れないことがあります。
しかし、このガイドラインで示された修繕積立金を見れば、マンションが必要とする修繕積立金の相場がわかりますので、今後どのくらい値上がりするのか予測する際に役立てることができます。
ガイドラインを活用する際の注意点
ここまでのとおり、ガイドラインが示す平均値はとても参考になりそうなのですが、実際のデータを見ると「なんだこれ?」となる部分があります。
具体的な数値は次の表のとおりです。

上記の表から、対象となるマンションの区分に該当する平均値にその専有面積(居住部分面積など)を乗じた金額が、ひと月の修繕積立金の目安になります。
でも「何だこれ?」となりませんか。
そうですよね。「なんで床面積が一番小さいマンションと、いわゆるタワマンがほぼ同じになるの?」ということですよね。
ガイドラインでは、その理由は特に説明されていません。
単に筆者の知識不足が原因でわからないのかも知れないのですが、修繕積立金を負担する人すべてに不動産知識があるわけではないと思いますので、なぜこうなったのか見解を示してほしかったなあと感じます。
ここからは筆者の推測を述べます。
床面積でデータを区分した理由について
そもそも床面積で平均値を区分した理由は何でしょうか。
推測になりますが、修繕積立金が「共用部分」のための資金であることが関係しているのではないかと思います。
専有面積あたりの総床面積(共有部分+専有部分)が大きいほど、各人が負担する修繕積立金は高くなります。
そして、どんなに小さなマンションであっても、人や荷物が通行できる一定の共用スペースは必要です。廊下の幅などには建築基準法の規制もありますので、マンションの大きさに比例して共用部分を狭くするには限界点があります。また、水・ガス・電気・インターネットを引き込むためのライフライン関係設備についても、マンションが小さいからといって、どれかをカットするわけにいきません。
おそらく同じようなデザインのマンションであれば、戸数がある数を超えると1戸あたりの修繕費が安くなる分岐点のようなものがあるのでしょう。総床面積の区分はそれらをなるべく反映させようと意識した結果なのではないでしょうか。
5,000㎡未満の修繕積立金が高い理由について
推測になりますが、小規模なマンションでは1戸あたりの共有部分の割合が高くなりやすいことが考えられます。
また、上記の修繕積立金の平均値は、機械式駐車場にかかる修繕費が除外されています。
小規模なマンションは入居者が少ないと考えられるため、サンプルとなった5,000㎡以下のマンションも、機械式駐車場が設置されていないものが多かったのかも知れません。
そのため、機械式駐車場がなければ、マンションの平面駐車場や立体駐車場などにかかる修繕積立金が平均値に含まれている可能性があり、もしそうであれば、金額に多少は影響している可能性があります。
20階以上の修繕積立金が高い理由について
こちらはガイドラインに説明があります。
階層が高いマンションについては外壁などの修繕の際に特別な足場が必要になるほか、共有部分の占める割合が多いことから、修繕積立金が高めになるそうです。
また、充実した共用施設のあるマンションでは修繕積立金がたくさん必要になりますので、もしかすると高層階のマンションでは、共用施設が充実しているサンプルが多いのかも知れません。
まとめ
国土交通省の修繕積立金のガイドラインは、マンションの現所有者や購入検討者に広く利用してもらえるデータです。
しかし、サンプルの少なさからか小規模なマンションとタワマンが同額になっているというパッと見るとよくわからないところがあり、鵜呑みにできないところがあることには注意が必要です。