歯列矯正には、基本的に保険が適用されません。
そのため、代金が数十万円になることもあります。
しかし、その代金が医療費控除の対象であれば、支払った者の税負担を軽減することができます。
税負担が減少すれば、安い費用で施術を受けることと実質的には同じです。
この記事では、歯列矯正の費用が医療費控除の対象になる場合のポイントを解説します。
歯列矯正は医療費控除の対象になる
歯列矯正には保険が使えない
医療費は、保険診療であれば自己負担2~3割となります。
しかし、歯科矯正は保険診療ではなく「自由診療」です。
自由診療ですので3割負担の保険は使えず、大人も子どもも10割を負担しなければなりません。
そのため何十万円、あるいは100万円を超え、驚くような費用になることがあります。
「厚生労働大臣が定める疾患」にあてはまれば、歯科矯正であっても保険診療の対象になるものもあります。治療を受けられる医療機関も限られているようですので、この点は、専門医に確認しましょう。
歯列矯正は税金の還付の対象になる
何十万円という費用を家計から捻出するのは容易なことではありません。
そこで検討したいのが、医療費の還付制度です。
医療費の還付制度には、社会保険による高額療養費の還付と、税金による医療費控除の還付があります。
歯列矯正の場合、残念ながら高額療養費による還付の対象にはなりません。
しかし、医療費控除であれば、要件を満たすことによって税金の還付を受けることができます。
歯列矯正が医療費控除の対象になるための条件
そもそも医療費控除とは
医療費控除とは、個人の所得を計算するときの「所得控除」の1つです。
自身や家族のために支払った医療費が10万円を超える場合、その超える分の金額を所得から差し引くことで、所得税や住民税の負担を軽減することができます。
申告できる上限額は200万円です。
「総所得金額等」が200万円未満の方については、「総所得金額等×5%」(最大10万円)を超える医療費の支払いがあれば対象になります。
「総所得金額等」とは、その年の個人所得の合計額のことです。
会社員などで収入が給与のみであれば、だいたい年収297万円未満の方が「総所得金額等200万円未満」に該当します。
自営業などで損失の繰越控除(いわゆる赤字の繰越し)をしている方は、損失を所得から控除した後の金額が「総所得金額等」になります。
ローンなどを組んで医療費を分割払いする場合は、支払った各年の控除ではなく、ローンの契約年でその全額が医療費控除の対象になります。
ローン会社の手数料にあたる支払いは、医療費控除の対象になりません。
医療費控除における「医療費」の範囲
医療費控除における医療費の範囲は、一般的な医療費のイメージとはやや異なります。
医療費控除の医療費にあたるものに、医師による診療費があります。
診察やその治療の対価、治療のための器具の代金などが対象になります。
美容のみを目的とした施術は、医師によるものであっても、医療費に該当しません。
通院のために公共交通機関に支払うバス代や電車代などの交通費も、医療費控除の対象になります。
こうした費用があれば、領収書やレシートを保管しておきましょう。
バス代など領収書がもらえない支払いがあれば、支払日・金額・区間等を記録しておくか、交通系ICカードなどを使用して履歴を保存しておくようにします。
治療を受ける本人分の交通費のみが対象ですが、小さいお子さんなどで付き添いが必要であれば、付き添い人の分の交通費も対象になります。
自家用車で通院している場合は、対象になりません。
また、治療の必要性がある場合を除き、わざわざ遠方の医療機関を選んだ場合の交通費も、医療費控除の対象になりません。
歯列矯正が医療費控除になるかどうかは「目的」が大切
歯列矯正が医療費控除の対象になる条件は、治療の目的があることです。
歯の機能性を回復させる目的の歯列矯正であれば医療費控除の対象になり、見た目を変えるのみの歯列矯正は対象になりません。
国税庁の質疑応答事例によると「将来の就職や結婚を考慮しての歯列矯正は、一般的には容姿を美化するためのものと認められ」ることから、医療費控除の対象にならないとしています。
歯の機能のためなのか、それとも見た目のためなのか、その「目的」が判断基準になるということです。
上記の質疑応答事例には他にも、「発育段階にある子供の成長を阻害しないようにするために行う不正咬合の歯列矯正のように、歯列矯正を受ける人の年齢や矯正の目的などからみて歯列矯正が必要と認められる場合の費用は、医療費控除の対象となります」と示されています。
質問に対して、やや唐突な感じがしますが、この部分には、医療費控除の根本的な考え方が由来していると考えられます。
医療費控除には「”病気の治療”は対象になっても”病気の予防”は対象にならない」という考え方があります。
風邪薬の購入費は対象になっても、ビタミン剤の購入費は対象になりません。
「インフルエンザにならないよう、予防接種しておこう」は相手にもしてくれません。
ところが先ほどの「成長を阻害しないようにするために行う歯列矯正」というのは、かなり「予防的」な発想です。
「年齢によっては、予防に近い考え方の歯列矯正も医療費控除の対象になるんですよ」と暗に私たちに伝えてくれているのでしょう。
成長期の子どもの歯列矯正は、より柔軟に考えることができそうです。
医療費控除で還付を受ける方法
医療費控除を受けるには確定申告が必要
医療費控除を受けるには、税務署への確定申告が必要になります。
その年の所得から源泉徴収された税金(所得税及び復興特別所得税)がある場合に、差額の還付を受けることができます。
還付を受けられる可能性があるのは、会社員や公務員、源泉徴収が必要な報酬をもらったり予定納税をしたりした個人事業主、老齢年金をもらっている人、保険会社の個人年金をもらっている人などです。
収入から控除された税金と、医療費控除を適用した後の税金を比べて、収入から控除された税金のほうが大きければ、確定申告をすることで還付を受けることができます。
なお、会社員や公務員で職場の年末調整を受けた方が医療費控除のみを申告する場合は、必ず還付を受けられます。
【重要】確定申告の期限
通常の確定申告は、1月1日~12月31日の間の所得について、その翌年3月15日までが期限になります。
これに対して、税金の還付を受けるための確定申告(還付申告)の期限は、翌年1月1日から5年が期限になります。
例えば、2023年分の医療費の還付申告の期限は、2028年12月31日になります。
納税することは「義務」なので期限も早いのですが、還付金をもらうことは「権利」なので期限もゆったりしているんだなと考えると間違えにくいです。
・医療費控除を申告しても納税額がある場合は翌年3月15日
・還付が受けられる場合は翌年1月1日から5年
ただし、医療費の支払いから数年後に還付を受ける場合でも、確定申告は、医療費を支払った年分で行います。
例えば、2023年に支払った医療費について2025年に還付を受ける場合でも、2023年分の確定申告として提出しなければならないということです。
その年の収入と医療費の支払いを対応させなければならないからです。
国税庁の確定申告書等作成コーナーやスマホ申告をする場合は、申告年の選択を間違えないようにしましょう。
また、紙の申告書を提出する場合は、確定申告書はわりとすぐに様式が変わるため、その点にも注意が必要です。(第一表の右端に「令和〇年分以降用」と書かれています)
確定申告をした後に医療費控除の漏れに気が付いた場合、その申告期限内(3月15日まで)でであれば、やり直した確定申告書を再提出することができます。この場合、新しい日付の確定申告が優先されるので前の申告はなかったことになります。
申告期限(3月15日)を過ぎている場合は、更正の請求(前の申告内容が間違っていたことを訂正する手続き)を行います。
更正の請求の期限は、元の確定申告に対する申告期限から5年内です。
例えば、2023年分の確定申告に対する更正の請求の期限は、2029年3月15日になります。
・法定申告期限(翌年3月15日)を過ぎていない場合は出し直せばOK
・期限を過ぎている場合は更正の請求(追加の所得も同時に申告するなどし、納税額がある場合は「修正申告」)
住民税の還付も確定申告でOK
確定申告によって還付される税金の種類は所得税及び復興特別所得税になりますが、この確定申告によって、翌年度の住民税も安くなります。
税務署に医療費控除の確定申告をすると、自動的に市区町村にも連絡されて、住民税の金額が変更されるからです。
確定申告をした時、住民税の徴収がまだ始まっていなければ、その住民税の減額で対応してもらえます。
また、住民税の徴収が終わった後に確定申告をした場合は、後日、市区町村から連絡があり差額が還付されます。
確定申告で受けられる医療費の還付はいくら?
医療費控除の確定申告によって還付される税額は、人によって異なります。
お手元に源泉徴収票がある方は、確定申告書等作成コーナーに数字を入力すれば、正確な金額を確かめることができます。
また、確定申告書等作成コーナーを使わなくても、源泉徴収票と電卓があればおおむね計算可能です。
こちらの記事でやり方を解説しています。
歯列矯正が医療費控除になるかどうか判断に迷った時の対応方法
医師に確認する
まずは、医師に医療費控除の対象になるかどうかを尋ねてみましょう。
医療費控除は、その歯列矯正が、美容のためではなく治療の必要があって施術したものであることが重要なポイントになります。
もちろん、医療費控除は税法上の制度ですから医師に税務の最終判断や責任を押し付けることはできません。
しかし、歯科医にとって、特に子どもの歯科矯正を扱っている歯科医にとっては、質問されやすい内容だと思います。
治療のためかどうかの観点から説明をしてくれるでしょう。
医療費控除の対象になることを前提に、自院の歯科矯正を広告宣伝しているクリニックもあります。
というわけで、契約時などに医師に確認しておくことが手っ取り早いと思います。
税務署の対面相談を利用する
どうしても不安なときは、税務署の個別相談を検討しましょう。
一般的な質問であれば国税庁の相談ダイヤルでも十分回答してもらえますが、個別の判断はしてくれません。
税務署には予約制で、個別相談にのってくれます。
歯列矯正の参考資料などを事前に医師から受け取っておくとスムーズだと思います。